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最高裁判所大法廷 昭和27年(あ)2456号 判決

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人を免訴する。

理由

弁護士徳田禎重の上告趣意は末尾添附のとおりである。

職権により調査するに、本件公訴事実は、

被告人は、林田輝雄、橋本治郎衛、草野辰己、丸山曲男等と共謀の上昭和二五年一〇月一一日頃北緯三〇度以南の南西諸島口之島で、日本内地に輸入する目的をもって、古銅屑等三屯を内火艇豊洋丸(八、七屯八〇馬力)に積込み同島を出航し、同月一二日午前一一時頃鹿屋市古江港に到着し税関の免許を受けないで右貨物を陸揚げして輸入したものである、というのである。

そして右行為の当時には、右南西諸島口之島は旧関税法(昭和二四年五月一四日法律六五号により改正された明治三二年法律六一号)一〇四条、昭和二四年五月二六日大蔵省令三六号により旧関税法の適用については、外国とみなされていたのであるが、昭和二七年二月六日大蔵省令五号により、右大蔵省令三六号は改正され昭和二七年二月一一日以降は右の地域は、外国とみなされなくなり本邦の地域とせられることとなった。従って同日以降は、本件公訴事実のような、右地域から税関の免許を受けないで貨物を輸入することは、右大蔵省令改正の結果として、何ら犯罪を構成しないものとなったのであって、これによって右行為の可罰性は失われたものというべく、本件は、刑訴三三七条二号にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当するものと解しなければならない。従って原判決及び第一審判決は、弁護人の上告趣意に対する判断をするまでもなく、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。よって、刑訴四一一条五号を適用し原判決及び第一審判決を破棄し、同四一三条、四一四条、四〇四条、三三七条二号により、被告人に免訴の言渡をなすべきものとし、主文のとおり判決する。

この裁判は、裁判官田中耕太郎、同島保、同斎藤悠輔、同入江俊郎、同池田克及び同高橋潔を除くその余の裁判官一致の意見によるものである。

裁判官小林俊三は、右の点に関し昭和二七年(あ)第四三四号同三〇年二月二三日言渡大法廷判決記載の同裁判官の意見と同一意見を附加する。

裁判官田中耕太郎、同島保、同斎藤悠輔、同入江俊郎、同池田克及び高橋潔の反対意見は次のとおりである。

口之島を含む北緯三〇度以南、北緯二九度以北の南西諸島は、本件犯行の当時においては、昭和二四年五月一四日法律六五号関税法の一部を改正する等の法律により改正された明治三二年法律六一号旧関税法一〇四条に基づく昭和二四年五月二六日大蔵省令三六号により旧関税法の適用については外国とみなされていたのであるが、右大蔵省令を改正した昭和二七年二月六日大蔵省令五号により、昭和二七年二月一一日以降は右の地域は、外国とみなされなくなり、本邦の地域となったことは前記法令自体で明らかである。従って、同日以降は本件犯行のような北緯三〇度以南の南西諸島から税関の免許を受けないで貨物を本邦に輸入する行為は関税法違反罪とならないことはいうまでもないところである。

しかしながら、右大蔵省令五号によって外国とみなされる地域に変更があっても、外国又は外国とみなされる地域と本邦との間において、免許を受けないで貨物を輸出又は輸入することが禁ぜられているという関税法上の規範は、昭和二七年二月一一日の前後を通じて現在に至るまで依然として存続され、従って、無免許輸出又は無免許輸入という所為の可罰性に関する法的価値もまた終始かわるところがないと解すべきである。それ故、右地域の変更は、昭和二七年二月一一日以前に成立した旧関税法七六条違反罪の処罰に何ら影響を及ぼすものではないといわなければならない。それは、例えば、通貨偽造罪成立後当該種類の通貨だけが法令によりその通貨としての強制通用力を失い、又は収賄罪成立後当該公務員の官職だけが法令により廃止されても既に成立した犯罪の処罰に少しも影響を及ぼさないと同じことである。されば、右大蔵省令五号の施行によって、本件所為について刑の廃止があったとすることはできない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔)

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